ハリウッドにて、人種差別に対しての考え方が30年でどう変わったのか

『グリーンブック』は、黒人に対して差別意識があったガサツな白人男性が、博士号を持っている知的で洗練されたピアニストの黒人男性に出会い、人種差別が根強く残る南部を一緒に旅することで二人の間に友情が芽生えるという心温まる素敵なストーリーで、今年のアカデミーの最優秀作品賞を受賞しました。

「今年の最優秀作品賞は、、、グリーンブックです」と、アナウンスがあった時、会場で席を立った人がいたのをご存知でしょうか。ブラック・クランンズマンで最優秀作品賞にノミネートされていたスパイク・リー監督です。リー監督に代表される黒人側の観点で『グリーンブック』をみると、そこにある友情は白人が望む(現実的ではない偽善的な)友情でしかないのだと言います。

席を立ったのには理由があります。約30年前の1990年の第62回アカデミー賞に遡ります。その年(その当時は最優秀作品賞としてノミネートされるのは5作品だけ)に、優秀作品賞としてノミネートされたのは、『ドライビング Miss デイジー』『7月4日に生まれて』『いまを生きる』 『フィールド・オブ・ドリームス』 『マイ・レフトフット』で、リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』は非常に高い評価を得ていたにも関わらず、ノミネートされませんでした。『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、スパイク・リー監督の初期の作品で、人種間の暴動を通して人種差別に対しての問題提起と、人種差別主義への糾弾を含む強いメッセージが込められたものです。差別を受ける黒人側から見たリアルな人種差別を描いた作品といえます。

最優秀作品賞ノミネート作品を紹介していたキム・ベイシンガーは「これら(のノミネート作品)が素晴らしいのは、理由があります。真実を伝えている、ということです。」と言い、そこからシナリオになかった内容を付け加えて「けれども、このノミネートリストに、はいっているべき素晴らしい作品がはいっていません。皮肉なことに、その作品は最も偉大な事実を伝えているからなのかもしれません。それは、『Do the Right Thing』(ドゥ・ザ・ライト・シング ー まっとうなことをする)です。」と続けました。“and they’re great for one reason: because they tell the truth.” Though summoned to introduce a Dead Poets Society highlight reel, Basinger then went off script. “But there is one film missing from this list that deserves to be on it,” she said, “because ironically, it might tell the biggest truth of all. And that’s Do the Right Thing.”

そして、最優秀作品賞を受賞した『ドライビング Miss デイジー』です。黒人に対して差別意識があった年老いた白人女性が、女性の運転を心配した息子になだめられ、読み書きもできない黒人男性のドライバーを雇い、人種差別が根強く残る南部を一緒に旅することで二人の間に友情が芽生えるという心温まる素敵なストーリーで、その年のアカデミーの最優秀作品賞を受賞しました。あれ、なんかどこかで見たような内容ですね。そうです、『グリーンブック』です。『ドライビング Miss デイジー』と『グリーンブック』は、白人が女性か男性か、雇われる立場のドライバーが黒人なのか白人なのかの違いはありますが、ストーリーの内容は非常に似ています。登場する黒人男性も、白人にとって理想的な白人にとって都合のよい形で描かれています。(どちらも事実にインスピレーションを得たストーリーとなっていますが、脚本はどちらも白人側の血縁関係者によって書かれています)

『グリーンブック』では、黒人のソウルフード「フライドチキン」も食べたことがなく、周囲に黒人もいない環境で生活する素晴らしい人格者の黒人が、雇用関係で賃金を支払っている白人に、辛抱強く愛を持って差別はよくないと理解させ作り上げられた関係を上から目線で「友情」と呼びます。『ドライビング Miss デイジー』では、最終的にボケてしまった白人女性が、献身的な黒人男性に「あなたは私の親友よ」と言うのですが、Miss デイジーの息子はドライバーだった男性にずっと賃金を払っています。本来、友情というのは、お金が絡まず雇用関係にもなく、感情や心理的に結びついた関係をいうのではないでしょうか。

ハリウッドでは、監督の大多数が白人の男性です。女性の監督も少ないけれど、黒人の監督も少ないが現状です。だから、黒人目線の作品も少ないということになります。そんな中、スパイク・リー監督は、黒人の目線で差別や世の中の不条理に対して、正しいことをするように叫び続けてきました。

黒人目線で「人種差別」をテーマに映画を製作したら、、、、それが『ブラック・クランズマン』です。『ドゥ・ザ・ライト・シング』と同様に、リー監督らしく、シリアスなテーマの中にコメディ要素がたっぷりと含まれています。コロラドで初の巡査となった黒人警官が白人至上主義のクー・クラックス・クラン(KKK)に潜入捜査する、という嘘のような実話がベースとなったストーリーです。長い間、差別を受けてきた側が感じるのは「怒り」です。でもリー監督は、怒りを暴力で訴えるのではなく、理性で持って正しい道へ導くことが大切なんだと伝えていると思います。

主人公のロンは、『ドゥ・ザ・ライト・シング』がノミネートを逃した第62回アカデミーで、黒人男性で2人目となる助演男優賞を受賞したデンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが演じています。デンゼル・ワシントンは、『モ'・ベター・ブルース』『マルコムX』『「ラストゲーム』『インサイド・マン』などで何度もリー監督の映画に出演しています。

アカデミー賞の授賞式の最後に発表されるのは作品賞ですが、そのいくつか前に発表される脚色賞で、『ブラック・クランズマン』の脚色を行なったスパイク・リーが受賞しました。プレゼンテーターは、『ドゥ・ザ・ライト・シング』での愛のダディ役だったサミュエル・L・ジャクソンで、壇上にあがったリー監督は、ジャクソンに抱きついて喜びました。その際のスピーチでは、「2020年の大統領選は、Let's do the right thing!」と締めくくりました。これは、(数年前に受賞した名誉賞を別として)リー監督初のアカデミー賞の受賞となります。

そして、最優秀作品賞では『グリーンブック』が受賞し、リー監督は非難の意味も込めて席を立つのですが、これは『ブラック・クランズマン』が受賞を逃したからではありません。ハリウッドの人種差別に関する意識は、『ドライビング Miss デイジー』が最優秀作品賞を受賞した30年前と何も変わらないからです。素晴らしい作品をいくつも世に送り出している才能のある監督が、監督賞も作品賞を受賞していないのはどうしてなのでしょう。そこに人種差別はないと言い切れるのでしょうか。そんなアメリカの人種間の構図を理解した上で、『グリーンブック』と『ブラック・クランズマン』を観ると、また違ったものがみえてくるかもしれません。

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