我来たり、我見たり、我勝利せり
Veni Vidi Vici
PG12
上映開始日:7/11
上映終了日:7/24
オーストリア
ダニエル・ヘースル、ユリア・ニーマン
ローレンス・ルップ、ウルシーナ・ラルディ、オリヴィア・ゴシュラー、キラ・クラウス、タマキ・ウチダ(内田珠綺)
オフィシャルサイト
2024 Ulrich Seidl Filmproduktion GmbH


我来たり、我見たり、我勝利せり

起業家として億万長者に成り上がり、幸福で充実した人生を送るマイナート家。一家の長であるアモンは、家族思いで趣味の狩りに情熱を注いでいる。ただ、アモンが狩るのは動物ではない。莫大な富を抱えた一家は“何”だって狩ることが許されるのだ。アモンは“狩り”と称し、何カ月も無差別に人を撃ち殺し続けている。“上級国民”である彼を止められるものはもはや何もない。一方、娘のパウラはそんな父親の傍若無人な姿を目の当たりにしながら、“上級国民”としてのふるまいを着実に身につけている。ある日、ついにパウラは父親と“狩り”に行きたいと言い出す。



「ユーモアは危険な時に最高に力を発揮する」という信念を持ち、観る者に笑いと怒りを同時に起こさせる気鋭の監督デュオによる本作。監督のダニエル・へースルとユリア・ニーマンは、金持ちの無敵さを極限まで押し上げ、歯止めがないシステムの結末と、自分の行動に責任を持たない世界の危険性を本作で見せつけた。ヘースルはオーストリアの巨匠ウルリヒ・ザイドルの助手だった経験があり、本作で“狩り”を題材にしたことはザイドルの『サファリ』(16)とのつながりを考えられずにはいられない。恐ろしいほど不快なこの物語にあなたは果たして耐えられるか。



世界の政治や経済のリーダーが集まる世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」の参加者たちと、その会議が行われるスイスののどかなダボスに住む住民との格差を描いたドキュメンタリー「Davo」(20)を筆頭に、監督のヘースルとニーマンは社会的均衡のシステムを制御不能に追い込んでいる資本と、その力に繰り返し焦点を当てている。本作も勝者と敗者、資本主義と価値観、権利と境界線について描いた映画だ。メイナードの“狩り”を止めることはできない。富を持つ者は自由に行動することができ、法でさえ彼らを裁くことはできない。嘘のようなこの”胸クソ映画“は私たちのすぐ隣にある物語なのだ。



2023年「オーストリア映画週間2024 Our Very Eye 揺るぎなき視線」で日本初上映となった本作。同イベントで紹介されたジェシカ・ハウスナー監督の『クラブ・ゼロ』はすでに日本で公開され、セヴェリン・フィアラ監督の『デビルズ・バス』は2025年に公開を控えており、話題のオーストリア映画が続々と日本で公開される。ミヒャエル・ハネケ、ウーリヒ・サイドルなど世界に影響を与え続けるオーストリア映画界の巨匠たちに続き、その挑発的な視点、人間に対する深い洞察力を受け継いだ若き才能たちが活躍するオーストリア映画界から目が離せない。