どん底作家の人生に幸あれ!
The Personal History of David Copperfield
G
イギリス・アメリカ合作イギリ
アーマンド・イアヌッチ
デブ・パテル 、アナイリン・バーナード、ピーター・キャパルディ、モーフィッド・クラーク
オフィシャルサイト
2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

どん底作家の人生に幸あれ!

「ダイバーシティ」という言葉を一般的に聞くようになったのは、いつくらいからでしょうか。ダイバーシティとは、多様な人材を積極的に活用しようという考え方のこと。 もとは、社会的マイノリティの就業機会拡大を意図して使われることが多かったが、現在は性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするマネジメントについていう。(出典:ナビゲート ビジネス基本用語集)

白人男性が断然優位のアメリカのショービス。女優たちは映画出演のギャラが興行成績に関係なく、男性の方がはるかに女性より高額なのは差別であると声をあげ始めました。映画を製作するプロデューサーや監督に女性が少ないのも、女性に機会を与えていない構造に問題がある、と、女性の社会進出を応援しているニコール・キッドマンは、1年半に1回は女性監督の作品に出演すると明言しています。4年前には、MTVが開催する映画の賞で、『美女と野獣』でベル役を演じたエマ・ワトソンが(男女の括りがない)最優秀俳優賞を受賞しました。



昨年、ベネチア国際映画祭で、ケイト・ブランシェットは「女優」ではなく「俳優」と呼んでほしいと訴えました。そして、今年のオスカーの監督賞は、なんとこれまでで初めて、女性監督がノミネートされました。(これまでをみても、女性の監督が監督賞にノミネートされたのは全部で5人だけであることを考えると、歴史的快挙です!)

ダイバーシティ(多様性)の観点での配役や活躍は、女性だけではありません。これまでは性的マイノリティの役をストレートの俳優が演じることが普通でしたが、アメリカでヒットしたドラマ『グリー』を手がけたライアン・マーフィーの新しいドラマ『POSE』はドラグクィーンの話。そこで描かれるLGBTqの役は全てLGBTqの俳優が演じています。

人種のに関しても、主人公が白人でなければならない決まりはなく、白人(というイメージがある役でも)非白人が演じる映画も出始めました。大きな話題となったのは、ディズニーのアニメ『リトル・マーメイド』の実写版です。赤い髪、青い目でお馴染みのアリエル役に、黒人女性をキャスティングしたことを発表しました。(世間の反応は賛否両論でした)

これと対極にある言葉が「ホワイトウォッシュ(白人化)」ですね。攻殻機動隊の実写版で草薙素子役を白人のスカーレット・ヨハンソンが演じるのは、ホワイトウォッシュだと批判がありました。(ホワイトウォッシュかもしれませんが、かなりアニメ版に忠実な少佐だったと私は思っていますが、この場合日本のアニメ自体がホワイトウォッシュ的というか、、、。話がそれました。)



長々と「ダイバーシティ」について書いたのは、『どん底作家の人生に幸あれ!』の配役です。イギリスを代表するチャールズ・ディケンズの自伝的小説と言われている『デイヴィッド・コパフィールド』の愉快痛快な登場人物が、(全員とまではいきませんが、少なくとも主人公を含め数人が)「白人」に囚われることなく、配役されています。

主役のデイヴィッドは、デヴ・パテル!(『スラムドッグ$ミリオネア』『マリーゴールド・ホテル』『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』『ホテル・ムンバイ』の彼です!)

私は、この配役のことを知らずに(原作も知らずに)観たので、最初は養子? 中国人のお父さんの子供が黒人???となってしまいましたが、話が進むうちにどうでもよくなるというか、あぁ、演じている役者の人種が違うってことか、と納得しました。



最初配役に混乱してしまっただけに思うことは、いろいろな解釈があるからこそ芸術であって、それをどう表現するかは監督だったり役者の力量でもあり。そんな中、私たち観るものに求められているのは、一度かけてしまったフィルターを外してみる、ということではないのかな、と。

映画という作り物をより本物に見せるために、CGや特殊メイクがあって、そういう意味では白人の役は白人が演じた方が「リアル」かもしれません。でも、全ての映画がリアルを追求しなくてもいいと教えてくれた作品でした。本レビューは、ダイバーシティなキャスティングの視点からのものでしたが、イギリスでは(きっと)誰もに愛されているディケンズのデビッド・コパフィールドの波瀾万丈な人生も、とてもおもしろいので、ぜひ劇場にてご鑑賞ください。