春江水暖 しゅんこうすいだん
春江水暖 Dwelling in the Fuchun Mountains
G
中国
グー・シャオガン
チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、ジャン・レンリアン、ジャン・グオイン
オフィシャルサイト
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春江水暖 しゅんこうすいだん

本作はタイトルが作品のテーマを表していて、原題(日本語も一緒)『春江水暖』は監督の故郷である浙江省杭州市富陽(フーヤン)の風景を蘇軾(そしょく)がうたった「恵崇春江晩景(えすうのしゅんこうばんけい)」の一節、英語のタイトル『Dwelling in the Fuchun Mountains(富春山居図)』は水墨画の代表的な傑作として知られている、黄公望(こうこうぼう)が富陽を描いた水墨画の絵巻物のことです。

蘇軾は宋時代の11世紀の文豪、詩人、書家、画家。黄公望は元時代の14世紀のとても高名な水墨画家で、どちらも中国の伝統ある文化物です。



「恵崇春江晩景」

竹外桃花三両枝 春江水暖鴨先知 縷蒿満地蘆芽短 正是河豚欲上時

日本語) 竹外の桃花 三両の枝 春江 水暖かなるは鴨先ず知る 縷蒿は地に満ち 蘆芽短し 正に是 河豚上らんと欲するの時

意味)竹林の外で桃の花が二枝三枝と開く。春に川の水が暖かくなってきたのを最初に知るのは鴨だ。シロヨモギが岸辺に咲き乱れ、アシが短く芽吹いている。今はちょうどフグが川を遡る時期だ。

公式ホームページより

作品は夏から始まり春に終わる富春江の四季と、そこに暮らすある一家の1年の物語でしたが、この作品が第一部で10年後くらいにまた同様のテーマで撮りたいと監督は考えているようなので、実現したら「夏」という字がタイトルにつくのでしょうか、、、。



英語のタイトルに関しては、ジャン先生が授業しているシーンの黒板に「Dwelling in the Fuchun Mountains」と英語のタイトルそのものが書かれており、ジャン先生が解説しています。水墨画「富春山居図」は巻物のように横長く続く山水画のようですが、この作品のいくつかのシーンで絵巻物のように風景を横に移動するロングショット(カットがなく長い間撮影を続けたまま撮る手法)があります。動く山水画のような美しいシーンと2組のカップルが交差するシーンなど、そのシーン自体が芸術です。



ストーリーに関しては、ある一家の3世代の話。親の世代は(多分)文化大革命の前で共産主義以前の伝統的な中国を生き、子供世代は激しく時代が変わった時代で、孫世代の現代は(作品の舞台である富陽では、2022年アジア競技大会が開催予定などで)街の開発が急激に進んでいたり、子の世代は4人兄弟だったけれど、孫の世代はひとりっ子政策でみな一人っ子、その孫の子たちは一人っ子政策が終わっているので一人以上子供を持てるという中国の実情が垣間見える中、介護や結婚、不動産の話など含めた家族の問題を淡々と描きだしています。

役者も監督の知り合いなどで、料理店をやっている長男の役者は本当に料理店をやっていて妻役は実際の妻、漁師役の次男も実際に漁師でその妻も実際の妻、三男の息子は実際に三男の役者の息子で、長男の子の恋人役も実際の恋人らしく、ある意味富陽に住むリアルな人たち。そのリアルさが本作品に深い味わいを与えていると思います。

美しい山水画のような本作品、ぜひ大きなスクリーンでお楽しみください。