83歳のやさしいスパイ
カミサマ大好き、ファミリー大好きな南米から、前半ほっこり、後半しんみりのアカデミー賞長編ドキュメンタリーにノミネートされた作品です。
「潜入捜査」という割には、引っかかってしまうアングルなど、若干違和感はあるのだけど、老人ホームという閉鎖的な世界を映し出す手法として、退屈にならずおもしろいと思います。
どこまでがリアルなのかって思わせてしまうところがもったいないと思う反面、潜入捜査っていう形で進めるから引き出せるものもあるのかなと思う側面もあって、そこがいいか悪いか人によって感じ方は違うと思いますが、普通と違う形のドキュメンタリーでユニークなのは間違いありません。
大なり小なりセルヒオに演出は入っているのだろうけど、彼の滲み出てくる人なりというのはきっと本人のものだと思います。ほっこりした彼の雰囲気、そして80代の彼だからこそ、入居者の人たちと同じ目線で語れ、心に寄り添うことができたことで、入居者の不安や哀しみをより浮き上がらせているのでしょう。
ボケた人というのは全部忘れてしまうのだと思いがちで、記憶を無くしてしまう高齢者の不安や哀しみというのは、まだ若い私達には計り知れない感情だと思います。記憶の一部をなくしたとしても、自分の感情はなくなるわけではない、忘れるからって、何も感じないんじゃないんだなぁ、と。
そういう老後の人生に起こるかもしれない状況を、説明するわけでもなく、ある意味リアルに私たちに見せるために、こういう作りのドキュメンタリーになったのだなぁと感心しました。スパイものの映画として見ると最後にオチがあるわけではないけど、本作品はドキュメンタリーだからあの終わりになるのだと思います。
老後のリアルを垣間見れる良作です。ぜひ劇場にてご覧ください。
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