名もなき歌
Cancion sin nombre
なし
ペルー・フランス・アメリカ合作
メリーナ・レオン
パメラ・メンドーサ・アルピ 、トミー・パラッガ、ルシオ・ロハス、マイコル・エルナンデス
オフィシャルサイト
Luxbox-Cancion Sin Nombre


名もなき歌

ペルーと聞いて、何を思い浮かべますか? 私は、フジモリ大統領、マチャピチュ、日本大使館人質事件くらいです。あ、ナスカの地上絵もペルーなんですね(←調べて気づいた)。 

南米って、遠いですよね。物理的にも遠いですし、(物理的に遠いから七日)馴染みがないという意味で心理的に遠い気もします。フジモリ大統領なんて日本の名字の日系人が大統領になるくらいなので、日系人多いのかなと思って調べたら、ペルー在住の日系人は南米で2番目に多くて10万人ほど。なるほど。でも、ペルーの人口3200万人からすると、10万人ってむちゃくちゃマイノリティですよね?



ペルーで民族的にマイノリティというと、ペルーは多民族国家で先住民とヨーロッパからの征服者たちの混血(メスティーソ)が人口の半分以上らしいのですが、インカ帝国時代の文化や伝統を継承し、今もその伝統を守り続けている先住民民族もいて、本作の主人公ヘオルヒナたちはそのうちの一つケチュア族だと思われます。作品中にアヤクーチョという地名が出てきますが、アヤクーチョを含むアンデス南部にある州はペルーの中でも特に先住民民族の人たちが多く住むところで、同時にペルーで最も貧しい地域でもあるのだそうです。

ケチュア族は多民族国家のペルーにおいて下位集団に属するようで、作品中に出てくる「有権者番号」というのが選挙権みたいなのですが、今でもなかなk選挙権を与えられていない、って監督がインタビューで答えていましたが、住んでいる国の選挙権がないってかなり差別されているということですよね。それが警察や裁判所で彼女たちが扱われた態度に出ている、ということなのでしょう。



同時に本作品の冒頭で毛沢東系の武装集団センデロ・ルミノソの件がニュースで流れていましたが、「南米ポル・ポト」と呼ばれるほど恐れられた過激なゲリラ集団で、アヤクーチョから闘争を始めました。センデロ・ルミノソの被害者の大多数は先住民族の人たちで、ここでもペルーにおける先住民族の人たちの置かれている状況が厳しいということになります。

加えて、本作品のメインとなる事件。民族問題や社会の格差、ゲリラ活動や政治腐敗による社会の混乱、さらに本作の舞台となった1980年代、ペルーは政府の経済政策の失敗でハイパーインフレ(商品の値段が高騰し、お金の実質的な価値が非常にさがること)、ついでに記者の個人的なことも含めると、ものすごい多くの問題を取り扱っています。



ケチュア族(アヤクーチョの先住民)の言葉から始まる本作は、ケチュアの音楽や衣装、民族舞踊のシーンも多く、起承転結が少ないので、ちょっとドキュメンタリーのような雰囲気があり、人としての普遍的な問題を提起した作品となっています。ちょっと遠い国の話ですが、ペルーが抱えている問題を少し垣間見てみませんか?