僕が跳びはねる理由
The Reason I Jump
G
イギリス
ジェリー・ロスウェル
原作 東田直樹
オフィシャルサイト
2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute

僕が跳びはねる理由



『僕が跳びはねる理由』は、自閉症の東田直樹さんが13歳の時に書いた本がベースとなっているドキュメンタリーです。この本のことは、出版された10年前話題になり、私も読みたいなと思いつつ、読んだことないまま本作を観ました。



自閉症のこと、自閉症の人たちのこと、どれくらいご存知ですか? 私はほとんど知りません。私が最初に自閉症のことを知ったのは、映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じるレイモンドが数字にものすごく強く、変化を嫌い、コミュニケーションが苦手な自閉症の役で、知ったと思います。レイモンドは、自閉症の中でも天才的な能力を持つサヴァン症候群と呼ばれる症状があるという役だったので、私の中では自閉症の人は天才肌が多いイメージがあるのですが、本ドキュメンタリーを見て、(ここでいう「天才」が「非凡」だとすると)あながち間違っていないのかもしれないと思いました。

平凡な私たちと違って、自閉症の人たちは感覚が鋭すぎるのにその感覚を放出できなかったり、感じていることのある一定の詳細にしか意識が向かなかったり、「感覚」に対しての捉え方が私たちと全然違っているのだと思いました。感覚だけでなく、時間の概念がないとか、記憶が線ではなく点のようだとか、五感の感じ方とか、とにかく全く違う。ただし、違うことは「ない」ことではないのに、自閉症の人たちはいろいろなものが「ない」と誤解されて、不当な扱いを受けている。不当に扱われているのに、それを訴える手段を持たない人たちが多い。そういうことを本作を見て気づきました。



私たちは、基本的に私たちのよく知る感覚で相手を知ろうとするし、その感覚でコミュニケーションを取ろうとする生き物なので、異文化の人たちと出会った時、相手の文化を知らなかったために、自分が知る常識で対応したことが相手の文化では受け入れ難いことだった、というようなことはあると思うのですが、これと似たようなことが、私たちと自閉症の人たちの間であるのだと思いました。私たちの使うコミュニケーション方法でコミュニケーションと取れないから、相手はコミュニケーションを取れない、もしくは取るつもりがない、という訳ではなく、自閉症の人が「会話で伝えられない」というのは、「私たちのやり方では伝えることができない」というだけで、決して「伝える意思を持たない」わけではないということを、私たちは理解しないといけないのだと強く思いました。



東田さんのインタビューを読んだのですが、これだけの考え方ができる人が、「(自分が思っていること、考えていることを)伝える手段がない」という状態にあったとしたらどんなに残酷なことなのか、これはきっと私たちには想像もできない辛さだろうと思いました。その辛さを測ることはできないけれど、そういう辛さがあると知っていることは、自閉症の人たちに寄り添うことができるということだと思うので、東田さんが本作の冒頭でいうように、本作が少しでも自閉症の人たちの助けになるように、多くの人たちに本作を観てもらいたいと思います。

自閉症の人たちの感覚が体験できるような映像となっていて、すごく美しくもある作品です。ぜひ劇場にてご鑑賞ください。