エル プラネタ
El Planeta
G
アメリカ・スペイン合作
アマリア・ウルマン
アマリア・ウルマン、アレ・ウルマン、チェン・ジョウ
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エル プラネタ

まずは監督のことから語りましょうか。アマリア・ウルマンというアルゼンチン生まれ、スペインの(映画の舞台となった)ヒホン育ち、ロンドンでアートを学んだ32歳「ミレニアム世代(1989年生まれ)」の新進気鋭の現代アートのアーティストの女性です。

この女性アーティストが現代アートの世界のみならず、一般的に有名になったのが2014年に『Excellences & Perfections』というSNSのインスタグラムをプラットフォームとしてパフォーマンスをした作品で、4ヶ月に渡り虚構の「アマリア・ウルマン」を演じ、フォロワーのリアクションも含めて(Colloqというツールで)アーカイブ化した作品でした。本当の友達が本当の自分の写真、本当の生活をSNSにアップして矛盾が生じないように、そしてパフォーマンスをしていることを悟られないように、この時期はリアルの友達と距離をとり、吟味した内容で写真とコメントをあげてストーリーを作り上げていったのだそうです。このパフォーマンスで彼女が表現したかったことは、語り出すと現代アート論とか、いや、ただのアートへの私の感想になりそうなので、ここでは置いておいて。



とにかく、アマリア・ウルマンというアーティストが、ヒホンで実在した母娘の食い逃げ的な詐欺事件がベースとなって、そこにアマリア・ウルマンと母親が実際にアパートを追い出された経験をエッセンスに、本当の母親と共演し、監督、脚本、衣装などウルマン自身が担当して撮った初の長編映画が、この『エルプラネタ』なのです。映画って、いろいろな側面がありますよね。見たこともない世界を楽しめる娯楽としての映画、疑似体験を味わうような感情を揺さぶられる感動を与えてくれる映画、社会問題などを取り上げた訴える力を持った映画、そして何かを表現するためのアートとしての映画。本作品は、紛れもなく「アート」な映画。



前述した『Excellences & Perfections』にもつながる、虚構とリアルのはざまみたいなテーマがそこにはあるのでしょうし、スペインの失業問題とかっていう社会問題も含まれていて、恋愛要素も始まりから終わりまでちゃんとあるし、ちょっと笑えるところや、オイオイって突っ込みたくなるところなどいろいろな要素が散りばめられているのですが、まぁ、とにかくオシャレです。なぜ白黒で撮ったのかという質問に予算の関係で、と答えていましたが、いや、予算の関係じゃなくて、狙ったでしょ、ちゃんと、と私は思っています。ついでに話が詳しくわからないところもありながら、軽快にサクサクっとつらつらっと進んで、結末に驚かされるあたりも、仕込まれた気がするのですが、本当のところどうなのでしょうか。



最後にちょっとしたトリビア(小ネタ)。エンドロールでお母さんのインタビューシーンがありますが、あれは本物のニュースの映像で、あのニュースで伝えられていたビッグイベントがヒホンであったので、マリアを演じた衣装のママと現場にいたところ、地元のニュースにインタビューを受け、その映像がニュースで流されたので、そのニュースを購入したのだそうです。そして、店員さんとデートの時に話している「長距離バスに乗っていた時に事故があって足を大怪我した」という話は、彼女に起きたことで今もその後遺症が残っているそうです。エンドロールでテレビのシーンを提供したとしてハル・ハートリーの名前がクレジットだれているのですが、ハル・ハートリーは好きな監督さんなのだそう。えぇ、ハル・ハートリー作品が好きな人は、本作も好きだと思います。

アマリア・ウルマンのホームページ
で、映画のエンドロールのニュースのシーンを撮った経緯などを語った動画や『Excellences & Perfections』を含め彼女の作品を見ることができます。