シルクロード.com 史上最大の闇サイト
Silk Road
PG12
アメリカ
ティラー・ラッセル
ジェイソン・クラーク、ニック・ロビンソン、ケイティ・アセルトン、ジミ・シンプソン
オフィシャルサイト
2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED. VE


シルクロード.com 史上最大の闇サイト

インターネットにあるものは何でもGoogleで探せると思っていた頃、特殊なブラウザーとシステムを利用してGoogleにひっかからないダークなネットワークがあると知りました。2000年代中頃のこと。(この頃にはまだシルクロードはありませんが、ダークウェブはもうありました)ちょっと興味があった私は覗いてみようと思ったけど、同時にビビりでもある私は、(見るのが「違法」というわけではないけど、いろいろなリスクがあるため)結局いまだにダークウェブの世界を見たことありません。

だから、ダークウェブのアマゾンみたいなサイト「シルクロード」のことを扱った映画が公開されると聞いた時は、上映されるのをとっても楽しみにしていました。この先、軽くストーリーに触れます。そして、レビューの後半で、映画の内容と実際にどうだったかということにについてふれますので、ネタバレ知りたくない方は、(ネタバレ注意の警告の後は)鑑賞後にご覧くださいませ。



空白の後、ストーリーにふれたレビューが始まります。















冒頭に「これは記者による調査と想像たくましいフィクションの産物である」とありますが、フィクションの部分は主に麻薬捜査官のリック・ボーデン(やその家族と、ボーデンの情報屋/友達のレイフォード)。映画の最後に「その後」の展開として、ウルブリヒトとDEA捜査官がどうなったか書かれてあった通り、リック・ボーデンのモデルとなったDEA捜査官がいるのは事実です。そのボルチモアの麻薬捜査官はカール・マーク・フォース。フォースは「ノブ」として、シルクロード経由でウルブリヒトとつながる辺りはそのまま事実です。ただ、映画ではハッキリと描かれていませんでしたが、フォースとウルブリヒトは、オンライン上でノブとDPRとして哲学的な話から日常的な話まで(オンラインチャットで)夜な夜な語り合うような、ある種の友情が育まれている関係性でした。(それはある意味、麻薬捜査官が潜入して囮捜査する際に、犯罪者と近づくために行われることのオンライン版でもあります)

ウルブリヒトは、ジャンベ(西アフリカの太鼓)を愛し、キャンパスを裸足で歩くようなヒッピーだったようで、大学卒業後はサンダルを履いていたみたいで、冒頭の図書館に行くシーンもよくみると、裸足にサンダルです。映画の中では青のパーカーを着ていますが、実際は赤でした。図書館の前にカフェに寄ったのは事実で、図書館の中で起きたこともほぼ事実です。図書館でPCを奪ったのがアジア系の女性だったのも事実だけど、電話はきっとフィクションですね。オンラインメディア「Gawker(ゴーカー)」に取り上げられたことは事実だけれど、それをウルブリヒトが自分で情報をリークした、かどうかは想像の範囲だと思われます。ターベルも現実の人物です。

事実かどうか、私がどうやってわかったか? それは、私がWIREDという雑誌を定期購読していたからです。裁判が終わった次の年の2016年にWIREDにかなり読み応えのあるシルクロードの顛末の記事が掲載されていました。WIREDという雑誌は今は廃刊されていますが、オンライン版はあります。2016年の記事の最初の4章は、 2018年のオンライン版で読むことができます。(雑誌掲載の記事は23章まであります)

2016年にこの記事を読んでからしばらく経っていたので、今回映画を見た際に大筋以外全部キレイさっぱり忘れていたため、映画を見ながら疑問に思ったことがいくつかあったので、(私と同じように疑問に思った方のために、私が疑問に思った内容に関して)再度、記事を読み直して、解説してみたいと思います。





<ネタバレ注意>空白の後に、ネタバレありのレビューが始まります。




















<疑問>
クロニックペイン(グリーン)とDPR(ロス)の関係(というか、クロニックペインは相手が誰かわからないと文句を言いながら、ボスだからという理由でなぜすぐに納得してスキャンした身分証明書を送ったのか?)

ノブ(ボーデン囮捜査官)がシルクロードの管理者とチャットを始めたが、なぜそんな簡単に管理者にコンタクトできるのか?

<解釈>
Amazonを想像すると、ただの利用者がジェフ・ベソスとAmazon内でコンタクトできるなんて想像もつきませんが、シルクロードの世界では、Amazonみたいに売買できたり、その商品にカスタマーレビューをつけたりするだけでなく、バレずに発送する方法や薬の効果的な使用について語り合えるフォーラム(掲示板)があり、ロスは最初は「シルクロード管理人」というような名前でフォーラムを立ち上げたり、システムの質問などに答えたりしていました。DPRと名乗り始めてから自由主義についてやなぜシルクロードを作ったのか、または自身の政治観など熱く語ったので、コミュニティ全体にDPRは広く知れ渡ることになり、ある意味カリスマ的な、カルト的な存在だったようです。

映画の中ではクロニックペインはコカインの質に関してのレビューを行なっていましたが、実際にはクロニックペインは緊急救命士だった頃に負った傷が原因で慢性痛(クロニックペイン)に悩まされていて、薬剤師に匹敵するほどの処方薬ことを勉強していたため、処方薬関連の薬のオーバードーズギリギリの使い方や処方箋の薬を効果的に鼻から吸う方法とかを適切にフォーラム(掲示板)で伝えていて、クロニックペインもシルクロードのコミュニティでは知られた人でした。

なので、ロス(DPR)がクロニックペインに声もかけるのもリクルート的な理由があるし、クロニックペインもボスと言われればそうだから仕方ないけど、確かにおもしろそうだから誘われた仕事やってみよう、と思うわけだし、ノブも(読んでもらえるかどうかは置いておいて)気軽にコンタクトする方法がある訳なのです。

<疑問>
発送元が全てウルブリヒトというように同一じゃないのに、なぜラクダのスタンプが使われているのか?

<解釈>
この辺、映画では説明されていなかったので、私はシルクロード関連の荷物には全部ラクダのスタンプが使われているのかと勘違いしたのですが、これはシルクロードだとボーデン捜査官に気づかさせるために映画上創作をしたか、もしくは、グリーン(クリニックペイン)が荷物を受け取って捕まるシーンがありますが、実はこれ「ノブ」と名乗ってオンライン上で(現実の)囮捜査していたフォースがシルクロードを使ってグリーンに送った荷物で、(映画で使われているように)ユタ州のスパニッシュフォークの郵送システムを利用して送られて、(違法なものを受け取ったので)グリーンは捕まることになります。

<疑問>
IPアドレスがわかったからって、なぜウルブリヒトにつなげることができるのか?

<解釈>
映画の中では、現場で鼻を効かせるボーデン捜査官からはスクリーンに張り付いてるだけの無能的な扱いを受けていたサイバー犯罪部門ですが、実際にFBIにターベルという捜査官がいてとてもとても優秀です。これからの犯罪捜査にはコンピュータサイエンスが必要だと修士号を取得したのちFBI捜査官になっています。(悪名高いハッカー集団「アノニマス」を壊滅させたことで、手腕が認められ、若いけれどシルクロード捜査でもトップだったんですね)

どうやってIPアドレスがわかったのか、そのIPアドレスからどうやって(少しずつ)ウルブリヒトにつながっていったのかというのは、WIREDの記事ではきちんと説明されていました。簡単にいうと、がっちりと匿名性が守られた技術で作り上げられたシステムでしたが、(天才的頭脳を持つといえど)プログラミングの素人が作ったシステムには「抜け」があり、地道な作業でその抜けたところから暗号化されていない情報を取り込み、その断片的な情報を集めてまた別の情報に辿り着き、というようなリアルの世界で言えば、地道に聞き込みを行い続けた、みたいなことをしてアイスランドのサーバーとサンフランシスコのカフェに辿り着きそこから得た情報と、シルクロードを始める前に「Tor(匿名性の高いネットワーク接続方法)を使って裏サービスを構築する方法」について、プログラマー向けのサイトの掲示板に質問していたロスウルブリヒトという名前が入ったメールアドレスからロスの名前が注目され、最終的にロスの行動を徹底的にDPRと比較して(DPRがシルクロードにログインしたりログアウトしたりする時間帯とロスの動き)その行動が一致したため、ロスが容疑者となる訳です。

この辺、映画のストーリーの中に入れ込んでくれたら、少しずつロスが見つかっていく追い詰められた感が出た気がハラハラした気がするのですが、ストーリーの中ではボーデンが追っていたので見せ場にはならなかったのでしょうね、、、。





他にも、「ビットコインウォレットを身分証明書と紐付けて作成したら、匿名性なくなるよね?」とか「ノブがビジネスをシルクロードでやってるかどうか、管理者のウルブリヒトにはわかるんじゃないの?」とか「フレンドリーケミストやレッドアンドホワイトの件、安直すぎるしDPRは簡単に騙されすぎない?」とか、「なんでボーデンはバレるって思って、お金をレイフォードに託すのか?(レイフォードが家の前に置くくらいなら、自分で渡してよくないか?)」とか、解決しない疑問はたくさんありました。。。

WIREDの記事では、オンラインとリアルでロスはちょっと人格が違ったように、またフォースも潜入捜査して時とリアルの人格が違っていて、複数のアイデンティティを持つことの脆弱さにふれて終わっていて、深かったです。


参考文献WIRED Vol.25
雑誌版は廃刊となっていますが、デジタル版は今でも購入できます。(シルクロードの記事だけでも良いごたえありますが、ビットコインなど仮想通貨の元となる技術であるブロックチェーンについてが特集で、4年前の記事ですがブロックチェーンの意義や基礎知識については今も変わりないので、今では古い情報という内容ではありません。WIREDの宣伝みたいなレビューになってしましましたが、WIREDの関係者でもWIREDから広告費もらってるわけでもないです。)

映画のクレジットにもあったローリングストーン誌の記事(英語)も読みましたが、こちらは裁判前の2014年の記事でガールフレンドの名前などストーリーと違うところがたくさんありました。でも、こちらの記事には、実際のウルブリヒトの写真が載ってますよ!