ふたつの部屋、ふたりの暮らし
Deux
G
フランス・ルクセンブルク・ベルギー合作
フィリッポ・メネゲッティ
バルバラ・スコバ 、マルティーヌ・シュバリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ
オフィシャルサイト
PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTEMIS PRODUCTIONS - 2019


ふたつの部屋、ふたりの暮らし

年老いたら恋愛しない、なんてことはなくて、本作のマドとニナを観ていると、女はいくつになっても恋をしていれば「女の顔」をするのね。そして、お互いを求めあい愛しあっているふたりは美しいなぁと思いながら観始めた本作。恋愛映画なんだけど、常になんか不穏な空気が纏わりついているサンペンスな感じで、主人公たちの年齢や、関係や、作品の雰囲気など、どこをとっても一般的ではないのだけど、深いところでは家族と恋愛のジレンマとか、理想と現実のギャップとか、人生観と秘密とか、どこにでもありえる普遍的なテーマなのかもしれないと思いました。



今でこそLGBTQを扱った作品は珍しくなくなって、LGBTq初期の「同性に恋し他のだけど、同性の恋人といるのは世間的にも厳しいし辛いから、同性の恋人に想いを馳せながら異性の恋人を選ぶ」というようなステレオタイプなストーリーだけではなくなってきたし、先進国の多くの国では同性婚(またはそれに準ずるもの。日本のパートナーシップ制度は含まない)が認められているとはいえ、社会や世間が常に寛容かというとそうでもない、というのもあると思います。



まぁ、他人のセクシュアリティに関しては認められても、家族となると話は別、っていうのもあるとは思います。ちょっと前に上映したフランスのドキュメンタリー「ガール」でも思いましたが、「自由、平等、友愛」のフランスでもなかなか理解されないのだなぁと思っていたら、本作の監督もそう思ったみたいで、その辺のことも描いてみたかったのだそう。監督はてっきり女の人だと思っていたら男性で、しかもこれが長編初作品らしく、びっくり。『ユンヒへ』も作品のもつ柔らかい繊細さは女性監督のものだと思ったら男性だったので、こういう思い込みも差別、とまでは言わなくても、性に対する刷り込みの一環で不必要なものかなと思ってみたり。



受けとめてもらえない現実の重みだとか、信じたくない事実の拒絶とか、家族への愛と恋愛の愛の違いとか、人生の終わらせ方についてとか、平たくいえば、愛とか老いとか介護とか人生とかについて考えさせられます。サスペンス調なのが、深いテーマをさらに深掘りしている感じで、直接的に殺人が起きるわけではないけど、無知な人々に心を殺されていく、心を殺されて壊れていく、そんなところがサスペンス的である意味合いなのかなと思いました。

美しく切ない作品です。なかなかない独特な作品ですので、ミニシアター系作品がお好きな方、おすすめです。