レ・ミゼラブル
Les miserables
G
フランス
監督:ラジ・リ
ダミエン・ボナール、ジャンヌ・バリバール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ
オフィシャルサイト
SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

レ・ミゼラブル

カンヌで審査員賞を受賞してアカデミーの外国語長編映画賞も受賞している作品だし、『レ・ミゼラブル』なんて大層なタイトルのフランス映画で、どんなもんだろうと思って見始めたのですが、今年のベスト映画のひとつといっていい素晴らしい作品でした。



『レ・ミゼラブル』というと、ヴィクトル・ユーゴーの小説を思い浮かべる方も多いと思いますが、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の主人公ジャン・ヴァルジャンが幼いコゼットと出会うのがモンフェルメイユというパリ郊外の場所です。

このモンフェルメイユは、本作品の脚本も書いたラジ・リ監督の生まれ育った(そして今も暮らしている)自治体。フランスで郊外(バンリュー)というと、多分英語でいうところのスラムとかプロジェクトに近いニュアンスで、移民が多く貧しい公営住宅団地を指すそうです。



サン=ドニ地区(パリの北部バンリュー)ではパリ同時多発テロ事件が起き、クリシー=ス=ボワ(パリの北東部のバンリュー)では「2005年パリ郊外暴動事件」と呼ばれる、警官が追跡したアフリカ系の若者が変電所で感電死するという事件が起き、暴動が数週間に渡って拡大し、夜間外出禁止令が出て、非常事態宣言が発せられところまでいきました。



映画『レ・ミゼラブル』は、この「2005年パリ郊外暴動事件」を元に、ラジ・リ監督がバンリューで生活してきて体験した出来事に基づいているそうです。現代のフランスの貧困と差別などの問題が、怒りと悲惨さ(ミゼラブル)で描かれていますが、何が正義で何が悪なのかという極論でもなく、正義と悪の片側からの視点でも偏ってもなく、フラットにただ驚きを持って眺めている様な前半。

私たちが知らないフランス一面バンリュー(郊外)の現実を、フランスらしいスタイリッシュさで描きながら、後半はもう圧巻。こんな素晴らしい映画が、コロナのせいで観る人が少ないのは残念だと思っていたので、改めて再開して上映できることになって、本当によかったです。



友よ、よく覚えておけ
悪いことも悪い人間もない
育てるものが悪いだけだ
「レ・ミゼラブル」
ヴィクトル・ユーゴー