英雄の証明
A Hero
G
イラン・フランス合作
アスガー・ファルハディ
アミール・ジャディディ、モーセン・タナバンデ、サハル・ゴルデュースト、マルヤム・シャーダイ
オフィシャルサイト
2021 Memento Production Asghar Farhadi Production ARTE France Cinema


英雄の証明

最初、何が起こっているのかよくわからず、一旦状況を理解したら、今度はタイトル「英雄の証明」っていうところの「証明」が気になってきて、それから「証明」がそういうことね、と理解したら、主人公のやっていることになんだか矛盾や胡散臭さを感じてしまい、観ている私たちも「英雄の証明」を求めているような気になりながら、時に考えなしに行動した主人公ラヒムにイラついたり、またはわかるわかると彼に同情したり、最後までいろんな感情になりながら観ました。

この先、ネタバレというほどではないけど、なんとなくストーリーの一部にふれています。


























ラヒムって、バカなの? 

と、本作品を観て、思うかもしれません。実際にストーリーの中で刑務所の所長(か、そんな感じの人)に同じようなことを言われます。そこでラヒムが答えた答えが、ある意味とてもこの主人公の状況を端的に説明していると思います。

ラヒムはバカなのか?

バカかもしれません。でも、でもですね。よーく考えると、この話、突き詰めれば誰にでも起こりうることなんじゃないかな、と思のです。誰でも、ではなかったとしても、少なくとも(刑務所にも入っていないし、借金もないけれど、ラヒムと同じ状況だったら)私も、ラヒムと似たり寄ったりな感じになるんじゃないかと思います。



騙した訳ではない罪、犯そうとしたけど犯さなかった罪。嘘ではないのだけど良かれと思ってついた小さなごまかし、本当のことを言ったのだけど周りに飲まれてしまってうやむやになってしまった事実、あまり考えずに使った電話番号など、ラヒムは基本的に悪い人ではありません。口がうまい訳でも、頭が切れる訳でもなく、目の前に餌があったら利己的に飛びついてしまうけど後でやましさが出てきて後悔する、っていうような普通の人。基本的に善人だけど聖人のような清らか一辺倒ではない、普通の人。

普通の人が英雄になってしまったから、起きてしまった状況。マスコミにしても、SNSにしても、周りの人たちも、いい時はいいけど、大きなウネリに流されるところが日本と似ているかもしれない。(もしかしたら、それは世界共通のことなのかな)

ここから先、ネタバレあります。



























反対(バーラム側)の立場からこのストーリーを考えると、また違った視点となります。バーラムが言っていることは、ちっとも間違っていない。多分、イスラム教において娘の持参金は大きいと思います。(だから、バーラムの娘がいつも態度悪いのも、当たり前だよね。)そして、バーラムから見ると、ラヒムはちっともあてにならないというのも事実なんじゃないかと。保証人になるっていうのは(当時は)信頼していたからで、でも、バーラムから見るとその信頼は裏切られた訳で。さらに、そして妹の旦那だったけれど何かあって離婚してるとなれば、妹の言い分側に立ってラヒムのことはよく思わなくなるなんて、現実の世界でもとても聞く話。

結局のところ、こんなことになるなら、正義感持ち出して拾い物を持ち主に返そうなんて思わなきゃよかった、って思うよね、きっと。数年前から「キャンセル・カルチャー」っていう言葉もあるし、いいことしても、ある側面だけで揚げ足取られSNSで槍玉にあうなんてことになりたくないなら、目立たないように生きているのが一番と私は思っていたりするのです。

監督さん、『別離』の監督さんでした! 本作、カンヌ映画祭のパルムドール(大賞)も受賞しています。マジで見応えたっぷり!