メイド・イン・バングラデシュ
Made in Bangladesh
なし
フランス・バングラデシュ・デンマーク・ポルトガル合作
ルバイヤット・ホセイン
シムリキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン
オフィシャルサイト
2019 - LES FILMS DE L’APRES MIDI - KHONA TALKIES - BEOFILM - MIDAS FILMES


メイド・イン・バングラデシュ

インド映画のノリで観たら、シリアスものでした。

20年近く前ですが、(イギリス人の)お友達がバングラデシュに住んでいたので、行ったことがあります。バングラデシュの首都ダッカを歩いて感じたのは、(タイやベトナムなどの東南アジアの国々と比べて)貧しそう、ということでした。(でも、危険だとは感じませんでした。)



イギリス人の友達のおうちで雇っているメイドさんの日給が1ドルと聞いて、(私の友達なら)もっと払えるよね?と思ったままに友達に伝えたら、きちんと労働契約を結んでいて、労働時間は長くないしきちんと守られていて、この金額というのはとてもとても好条件なのだと教えてくれました。

世界銀行は、1日1.25ドルを「貧困ライン」と定めているので、日給1ドルというのは国際的にみて貧困ライン以下の生活を送っていることになります。好条件だとしても、(たとえ、1日10ドルでも私たちの感覚からするととても安いわけで)もっと払ってあげることもできるよね?と言うと、労働に見合わないお金をあげることは「施し」になり、それは結果的にそのバングラデシュ人の(メイドさんの)ためにならない、と。

労働条件がいいことは、労働者である彼女にとっていいことだけど、賃金が通常よりも高いとなると、周りの家族や親族に搾取されたりたかられたり、(数年でバングラデシュを去る予定の)友達がいなくなった時に、同水準の賃金は得られなくなって困ってしまう、と。だから友達は、賃金を水準に保つ代わりに、お金の計算の仕方、労働契約を結ぶことのメリット、労働者の権利などを教えることで、友達との契約が切れたあと、メイドさんがよりいい仕事に就ける知識、労働者として自分を守ることのできる知識を提供している、と言っていました。



本作『メイド・イン・バングラデシュ』を観た時、友達のうちで働いていたメイドさんのことを思い出しました。メイドの仕事や、ミシンがけのような仕事に従事するバングラデシュの女性は、私たちが普通に知っている(けれどもあまり意識していない)労働者として権利があるということを知らずに搾取されています。

彼女たちの労働力を搾取して、安い製品を先進国で売っているのが、ファストファッションブランドだったりします。本作品中で、「あなたたちが月に数千枚作っているTシャツ2、3枚であなたの月収よ」というようなことを言われるシーンがあるのですが、私たちが買う安いTシャツが10ドルくらいだとすると、彼女たちの月収は20ドルから30ドル。つまり日給1ドルくらいで働いていることになります。しかも、残業代などもらえないひどいブラックな環境の中で。彼女たちに労働者としての権利があることも知らずに。



映画から話はずれますが、こういう現状を変えたいと挑んだ日本人女性がいます。(安いだけでない)『途上国から世界に通用するブランドをつくる』という理念で、バングラデシュでバッグを作り先進国で販売するというブランドを立ち上げました。ブランドが浸透していく過程においては、バングラデシュの人々がフェアトレードで作ったバッグという話題性もあったのですが、今では普通にデパートなどで販売されているそこそこのお値段のバッグです。興味がある方は、ぜひこちらをご覧ください。

話を本作に戻しましょう。本作は、ダリヤ・アクター・ドリ氏の実話に基づくのだそうです。そのドリさんや本作の監督が出席したシンポジウムについて書かれた記事にあった本作のチラシに、「The woman behind the label」とありました。「(洋服のタグである)ラベルの裏にいる女性たち」という意味です。安い服を買う時にほとんど考えることのない、その服たちを作っている女性たち。『私たち女には結婚前も後も自由はない』と言っていたバングラデシュの女性たちや、同じように貧困ライン以下で生活している人たちに、先進国が、資本主義がしていること。本作を通じて、安さの裏側についてしばし考えるきっかけになればと思います。