聖地には蜘蛛が巣を張る
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリを受賞した北欧ミステリー『ボーダー 二つの世界』で、私たちが無意識に引く“境界”を暴き出し、差別や優劣意識を白日の下に晒した北欧ミステリーの鬼才アリ・アッバシ。彼が着想を得たのは、2000年~2001年にイランの聖地マシュハドで殺人鬼“スパイダー・キラー”が16人もの娼婦を殺害した連続殺人事件。前作『ボーダー 二つの世界』で、善と悪、美と醜など世の中のあらゆる“境界”の既成概念を揺さぶり、私たちに潜む差別や優劣意識を白日の下に晒したアッバシ監督。人間の本性を凝視する視線はそのままに、本作では、娼婦連続殺人事件の全容から、私たち人間に潜在する狂気と恐怖を暴き出す。15年の構想を経て描く本作は、世界49以上の映画祭を席巻、デンマークのアカデミー賞ロバート賞で11部門を制覇、アカデミー賞デンマーク代表作品にも選出された。
デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス合作映画の本作は、イラン出身で北欧を拠点に活躍するアッバシ監督ならではの視点で人間の暗部を大胆に暴く、イラン国内の映画では描き得なかった作品。イランでの撮影の許可が下りず、撮影地はヨルダンのアンマンになった。
カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したのは、主演のザーラ・アミール・エブラヒミ。彼女は、第三者による私的なセックステープの流出によってスキャンダルの被害者となり、2008年、国民的女優として成功を収めていたイランからフランスへの亡命を余儀なくされた。一方、彼女が演じる果敢な主人公ラヒミにも、性差別的なスキャンダルで不当に職を追われた過去がある。自身の人生に重なる役柄を、主人公が直面する不条理への怒りに基づく鬼気迫る演技で体現、その素晴らしい演技は、彼女に受賞という大きな栄誉をもたらした。
人間の深淵に潜む狂気を極限まで掘り下げたとき、私たちは何を見るのか――。緊迫感途切れぬ衝撃のクライム・サスペンスが誕生した。
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