私、オルガ・ヘプナロヴァー
Ja, Olga Hepnarova
なし
チェコ・ポーランド・スロバキア・フランス合作
トマーシュ・バインレプ、ペトル・カズダ
ミハリナ・オルシャンスカ、マリカ・ソポスカー、クラーラ・メリスコバ、マルチン・ペフラート
オフィシャルサイト


私、オルガ・ヘプナロヴァー

“ 私、オルガ・ヘプナロヴァーはお前たちに死刑を宣告する” ある日、彼女は自分の中の悪魔を解き放った。



1973年、22歳のオルガはチェコの首都であるプラハの中心地で、路面電車を待つ群衆の間へトラックで突っ込む。この事故で8人が死亡、12人が負傷する。オルガは逮捕後も全く反省の色も見せず、チェコスロバキア最後の女性死刑囚として絞首刑に処された。犯行前、オルガは新聞社に犯行声明文を送った。自分の行為は、多くの人々から受けた虐待に対する復讐であり、社会に罰を与えたと示す。自らを「性的障害者」と呼ぶオルガは、酒とタバコに溺れ、女たちと次々、肌を重ねる。しかし、苦悩と疎外感を抱えたままの精神状態は、ヤスリで削られていくかのように悪化の一途をたどる…。



2016年ベルリン国際映画祭パノラマ部門のオープニング作品を飾った本作は、2010年に刊行された原作「Ja, Olga Hepnarová」を元に、チェコ映画界の新鋭トマーシュ・ヴァインレプとペトル・カズダ両監督が映画化。主演は『ゆれる人魚』(15)、『マチルダ 禁断の恋』(17)のポーランド出身、ミハリナ・オルシャンニスカ。社会の片隅でもがく絶望の演技でチェコ・アカデミー賞主演女優賞を受賞。誰にも打ち明けられず、誰にも理解されず、誰にも助けられない、怒りと絶望が水滴のようにグラスに留まって、やがて零れ落ちるとき運命の扉が開く…感傷を一切排したこの衝撃作は、加害者と被害者どちらにもなりうる私たちを残して、平手打ちのように終わる。



<ストーリー>

凍りついた実家を象徴する、永遠に続くかのように多くのドアが閉ざされた裸の廊下。無口で内向的な彼女は、ベッドに横たわっている。オルガは気分が乗らないという理由だけで学校に行きたがらない。オルガはつねに不機嫌で、自分の殻に閉じこもり、本を読み日記をつけている。13歳のときから深い鬱病に悩まされていたオルガは、精神安定剤メプロバメートを過剰摂取し、自殺を図る。未遂に終わったオルガは、精神科の病院に入る。そこで初めて同性同士のカップリングや未成年者の喫煙に直面する。病院でも異質な存在として見られるオルガは、シャワー室で集団リンチを受けるのだった。退院後、オルガは家族から距離を置くようになる。誕生日の願いは家族から離れること。

煩わしい親元を離れ、一人で暮らす森の中の質素な家具しかない小屋は、彼女の孤独の象徴となる。世間への反抗の証にとばかりに髪をボーイッシュなボブに切り、目立たないように頭を下げ、タバコを吸いながら、ガレージでのトラック運転手として働く。職場で出会った美しいイトカに自分と同じような匂いを感じ取ったオルガは、自分の性癖を発見する。だがイトカには別の恋人がおり、オルガとの蜜月の日々は長く続かなかった。イトカに捨てられたオルガは、孤独のどん底に突き落とされる。灰皿は吸い殻で溢れるようになり、以前にも増して自暴自棄となるのだった。

何度も母親に相談するが、結局、処方箋を無言で渡されるだけ。精神科クリニックもオルガを突き放す。そんな中でも、オルガに声を掛けてきた奇特な酒好きの中年男ミラと一時、心の安寧を得る。それでも満たされることのないオルガに残るのはタバコと薬、日記や手紙を書くことだけ。オルガの内なる怒りが時間をかけて蓄積され、とうとう最後の行動に出る…。