娘は戦場で生まれた
For Sama
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イギリス・シリア合作
ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブ
オフィシャルサイト
Channel 4 Television Corporation MMXIX

娘は戦場で生まれた

中東のシリアと聞いてもどこにあるかピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、人類の歴史が始まった時からずっと文明がある地域です。メソポタミア文明、アッシリア王国の頃からシリアには文明が存在し、ペルシア(アケメネス朝)、ギリシア(マケドニア王国)、古代ローマ(ビザンチン帝国)などの支配を経て、イスラムの最初の王朝ウマイヤ朝やモンゴル帝国やオスマン帝国、フランスが占領していた時期などを経て、第二次世界大戦後より(フランスから)独立します。



その後数年で軍事独裁政権が成立し、いくつかのクーデターや分裂や動乱を経て、1970年にハーフィズ・アル=アサドによるクーデーターでアサド政権が誕生し大統領となり、彼の死後(2000年)からは息子のバッシャール・アル=アサドが大統領となっています。アサドは、イスラム教の最大勢力であるスンニ派ではなくシーア派の分派で独特な流儀を持つアラウィー派で、シリアでは少数(1割強)にも関わらずシーア派の人々をを優遇していたため、スンニ派や少数民族の人たちの不満が募っていました。



2011年に中東で起きたアラブの春から発展し始まったシリア内戦は、1970年より始まったアサド政権の独裁を倒すことを目指していましたが、少数民族であるクルド人勢力やアルカイダ系武装勢力やイスラム原理主義の過激派イスラム国などさまざまな勢力が戦い、ロシア軍、トルコ軍、アメリカ軍やNATO軍も介入して、多くの市民が犠牲となり、残された人たちも難民として国外に逃げ、シリアのいたるところが壊滅的に破壊されました。



シリアの首都ダマスカスの次に大きなシリア北部にあるアレッポは、メソポタミア文明の時から要の都市として栄え、中世に建築されたアレッポ城と旧市街は世界遺産に登録されている美しい街です。シリア内戦では、2012年から反体制派の最大勢力だった自由シリア軍(FSA)とシリアの政府軍と東西に分断して数年間激しい市街地戦を繰り返し、2016年の政府軍による数ヶ月による包囲で空爆や戦車による攻撃によりアレッポの街は大半が崩壊してしまいました。



『娘は戦場で生まれた』は、主に2016年の激しい戦闘中にアレッポ市内で生活していた人々の生の姿を撮ったドキュメンタリーです。映画ではなく、リアルな戦争を母親の心情を踏まえて撮った作品で、全ての子を持つ親に見てもらいたいです。平和の尊さがどれだけ重要なのか、命を脅かされないで生活できるということがどれほど価値があることなのか、改めて感謝したくなります。



さっきまで元気に一緒に遊んでいた弟が次の瞬間には爆撃で死んでしまう。愛する子が死んだ母親は、私の子だから私から取り上げないで、とその子を他人が運ぶことを許さない。病院に連れてこられたけれど助からない命。その病院ですら攻撃を受ける狂った世界。それが戦争です。 今でも地球のどこかでは戦争が起きていて、そこで闘っている人、そこに住んでいる生身の人たちがいます。『娘は戦場で生まれた』は、シリアで数年前に実際に起きた出来事で、今もシリアの混乱は収まっていません。