波紋
須藤依子(筒井真理子)は、今朝も庭の手入れを欠かさない。“緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに暮らしていた。ある日、長いこと失踪したままだった夫、修(光石研)が突然帰ってくるまでは—。
自分の父の介護を押し付けたまま失踪し、その上がん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくる夫。障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきた息子・拓哉(磯村勇斗)。パート先では癇癪持ちの客に大声で怒鳴られる・・・。
自分ではどうにも出来ない辛苦が降りかかる。依子は湧き起こる黒い感情を、宗教にすがり、必死に理性で押さえつけようとする。全てを押し殺した依子の感情が爆発する時、映画は絶望からエンタテインメントへと昇華する。
全員、実力派。全員、ヤバい。
第67回ベルリン国際映画祭・観客賞&審査員特別賞受賞『彼らが本気で編むときは」
荻上直子最新作にして最高傑作に豪華俳優陣集結。
荻上直子監督のオリジナル最新作にして、監督自身が歴代最高の脚本と自負する絶望エンタテインメントの誕生だ。監督は、須藤家を通して、現代社会の闇や不安と女性の苦悩を淡々と、ソリッドに描き出す。放射能、介護、新興宗教、障害者差別といった、誰もがどこかで見聞きしたことのある現代社会の問題に次々と翻弄される須藤家は、正に社会の縮図だ。しかし、これを単なる絶望で終わらせないのが荻上監督の新境地とも言える。そんな斬新な内容に鑑賞者を引き込むリアリティを与えているのは、筒井真理子、光石研、磯村勇斗、木野花、キムラ緑子、柄本明、江口のりこ、平岩紙ら、名前を挙げるだけで興奮を覚える役者たち。
依子から広がる波紋は、きっと全ての女性、いや現代社会に生きる全ての人に届くことだろう。
依子は、あなただ。
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