栗の森のものがたり
Zgodbe iz kostanjevih gozdov
なし
スロベニア
グレゴル・ボジッチ
マッシモ・デ・フランコビッチ、イバナ・ロスチ、ジュジ・メルリ、トミ・ヤネジッチ
オフィシャルサイト
NOSOROGI TRANSMEDIA PRODUCTION RTV SLOVENIJA DFFB 2019


栗の森のものがたり

金色と銅色の枯葉の絨毯に彩られる色彩豊かな季節。静寂がささやく栗の森で語られる哀切の余話『栗の森のものがたり』。ケチで不器用な年老いた棺桶職人マリオと、この地を離れることだけを夢見る若い栗売りマルタ。マリオは家を出た息子ジェルマーノと死にゆく妻ドーラのことを、マルタは第二次世界大戦から戻らない夫のことに思いを馳せている…。それぞれ悲しみに包まれていた見知らぬ二人は、栗の森によって結び付けられる。夢、幻影、幻覚が現実の記憶と混在し、それぞれの物語がマトリョーシカのように別の物語に繋がり、「魂が忘れられた場所」に光を灯してゆく。



監督・脚本・編集を手掛けたのは、本作が長編デビューとなるスロヴェニア出身のグレゴル・ボジッチ。フェルメールやレンブラントといったオランダのバロック期や印象派の画家に影響を受けたというボジッチは、35mmとスーパー16mmフィルムを駆使し絵画のような風景を切り取る。使い古しの洗面器にピッチャーや果物、箒や靴、洗濯カゴや紙くずまで何もかもが優しい光に照らされ、ゆっくりと時が流れる森の日常を、陰影深く描き出した独特の映像美。何気ない日常生活のワンシーンさえも最初から最後まで美しい。

すべてのカットに美が宿る映像美で魅せる、すでに古典の趣さえ漂う成熟した珠玉作だ。この秋、スロヴェニアから届いたメランコリックな大人の寓話が、あなたに深い余韻を約束する。



<ストーリー>

ここは栗の森に囲まれたイタリアとの国境地帯にある小さな村。第二次世界大戦は終結したが長引く政情不安が村人の生活に影を落としたまま、今年もまた厳しい冬がやって来る。人々の多くはここでの生活に見切りをつけ、金を稼ぎにこの土地を離れたが、戻ってくるはずもない家族や隣人をただ待ち続ける、村に残る者もいた。いずれにせよ、ここには夢も、未来もない。あるのは貧困と諦め、そして葉を落とし、金色と銅色で地を美しく染める栗の木々だけだ。



老大工のマリオもまた、家を出たまま戻らない一人息子ジェルマーノからの連絡を待ち続けていた。ジェルマーノはどこで暮らし、何をしているのか。息子の行先を知らないことも妻に伝えず、息子の身を案じる彼女を慰めようともしないマリオ。できるのは、投函することのない息子宛の手紙に想いを綴っては引き出しにしまうこと。まるで自分の心に蓋をするかのように。

ある夜、マリオは病に冒されたまま病状が一向に好転しないドーラを連れ、深夜の乗合馬車で村はずれの診療所を訪れる。だが簡単な診察とわずかな薬を手渡され、追い返される二人。そしてドーラは、なぜ息子に連絡させてくれなかったのかと夫を責めながら息を引き取ってしまう。そして一人残されたマリオ…。