風が吹くとき
When the Wind Blows
なし
イギリス
ジミー・T・ムラカミ
森繁久彌、加藤治子
オフィシャルサイト
Channel Four Television Corporation 2001

風が吹くとき

アニメーション映画『風が吹くとき』は、1986年に英国で制作され、翌1987年に日本でも劇場公開された。「スノーマン」や「さむがりやのサンタ」で知られる作家・イラストレーターのレイモンド・ブリッグズが、マンガのようなコマ割りスタイルで描いた同名の原作「風が吹くとき」(あすなろ書房刊)を、自らも長崎に住む親戚を原爆で亡くした日系アメリカ人のジミー・T・ムラカミ(『スノーマン』)が監督。音楽を元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズが手掛け、主題歌「When the Wind Blows」をデヴィッド・ボウイが歌っている。さらに『戦場のメリークリスマス』(1983)で生まれたボウイとの友情から、日本語(吹替)版を大島渚監督が担当。また、主人公の夫婦ジムとヒルダの声を森繁久彌と加藤治子が吹き替えたことでも大きな話題を呼んだ一作だ。



本作はしかし、ブリッグズの愛らしいキャラクターと温かみのあるタッチからは想像がつかないほど、核戦争の恐怖を強く訴える物語でもある。日本での初公開から37年を経た現在でも、SNSでは「当時鑑賞してトラウマになった」というファンも少なくない。ブリッグズはなぜ核の恐怖を描いたのか?原作が描かれた1982年当時は、米国とソ連(現ロシア)が数万発もの核兵器を保有し、軍拡競争を繰り広げた冷戦時代の真っ只中。本作で観客を唖然とさせるシーンの一つに、「3日以内に核戦争が起こる」というニュースを聞いたジムとヒルダ夫妻が、政府が発行する「PROTECT AND SURVIVE(守り抜く)」というガイドブックを参考に、自宅でドアとクッションを使った核シェルターを作る場面がある。今見ると、あまりにもナンセンスな内容だが、実は、この冊子は現実に存在し、1974年から80年まで英国政府がテレビCMやリーフレットなどの形で配布していたものである。こうした政府の姿勢に強い憤りを抱いたことも、ブリッグズが『風が吹くとき』を描いた理由の一つとなっている。



図らずも、今年2024年はアカデミー賞7部門を受賞した『オッペンハイマー』も日本で公開された。1970年生まれのクリストファー・ノーラン監督は、オッペンハイマーという人物を映画の題材に選んだ理由を問われると「私が育った1980年代のイギリスは核兵器や核の拡散に対する恐怖感に包まれていたんです」と語り、子供時代に本作を観ていたとも話している。これはブリッグズが『風が吹くとき』を描いた時期とも重なり、いかに当時、多くの人々が核戦争の脅威を身近に感じていたかが分かる。国際情勢が大きく揺らぎ、再びリアリティを増す核戦争の脅威について警鐘を鳴らすべく、唯一の被爆国であるこの日本でも『風が吹くとき』が蘇る。



<ストーリー>

イギリスの片田舎で暮らすジムとヒルダの平凡な夫婦。二度の世界大戦をくぐり抜け、子供を育てあげ今は老境に差し掛かった二人。ある日ラジオから、新たな世界戦争が起こり核爆弾が落ちてくる、という知らせを聞く。ジムは政府のパンフレットに従ってシェルターを作り始める。先の戦争体験が去来し、二人は他愛のない愚痴を交わしながら備える…。そして、その時はやってきた。爆弾が炸裂し、凄まじい熱と風が吹きすさぶ。すべてが瓦礫と化した中で、生き延びた二人は再び政府の教えにしたがってシェルターでの生活を始めるのだが…。