この世界に残されて
Akik maradtak
G
ハンガリー
バルナバーシュ・トート
カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー
オフィシャルサイト
Inforg M&M Film 2019

この世界に残されて

少し前に上映した『ヒトラーに盗られたうさぎ』は、辛い状況ながらも家族仲良く助け合い、どんな境遇でも楽しいことを見つけて明るい希望を見出すことのできる「こども」に救われるストーリでした。本作も第二次世界大戦でのユダヤ人迫害を受けた少女の目線からみた作品ですが、かなり色合いが違います。



孤独を恐れる少女と、孤独に身置き感情をなくすことでかろうじて生きている中年男性の、失ったものを互いに補うように身を寄せて始まった関係は、決して後ろ向きでなく生存したいという証なのだと思います。2人の関係が近くなっていく中で、語られない感情が存在したことが見て取れるのですが、その描写が素晴らしい。

最後に近いシーンで、会話もなくアルドがクララを数秒間見つめるだけのシーンが、もう最高です。愛しさ、寂しさ、暖かさ、感謝、優しさ、悲しさ、これまでの想い、記憶、これからの不安、そんな複雑な感情が織り混ざったアルドの表情は、それだけで本作品全てを表しているようなすごい表情でした。



みる人によって解釈が違うのではないかと思いますが、私の結論は、「愛の形はひとつではなく、不変でもなく、形を変えながらも相手を思いやる気持ちが愛なのではないのか」と。淡い色、セリフでなく表情で伝わる心情、間のとり方やカメラワークのどれもが美しく繊細でとてもよい作品です。本作品の後、彼らがどういう状況に置かされるのか興味がある方は、「ハンガリー動乱」を調べてみてください。