凱歌
なし
日本
坂口香津美
山内きみ江、山内定、中村賢一 、斉藤くるみ
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差別と偏見は、なぜ繰り返されるのか? 東京都東村山市にある国立療養所多磨全生園を舞台に、国による非人道的な終身隔離政策により、強制的に入所させられたハンセン病の元患者の人々を9年間撮影したドキュメンタリー映画。



ハンセン病になったことで、「きたない」、「うつる」と、差別を浴びせられました。療養所では、井戸に飛び込むなど、ハンセン病を苦に次々と命を断つ人々の姿がいました。 「おれと四畳半に行ってくれないか」 そんなある日、一人の男性の患者さんからプロポーズを受けました。「四畳半」とは、夫婦で暮らす部屋のこと。「結婚してください」という意味です。 療養所での先が見えない未来、生きていても何の楽しみもない、自分から求めて幸せをつかむ勇気もない……、そんな彼が30歳を過ぎて、私と出会い、愛を告白したのです。 私は、彼の純真さに惹かれ、彼を信じて、彼との結婚を決意しました。「彼の命は持って4年……」と彼の担当医は私に言いましたが、私の決意は揺るぎませんでした。 今日まで私が生きて来られたのは、同じ病を背負う者同士の結婚と、子どもを作れなくてもお互いに慈しみ、痛みを分かち合えたこと。それなしに、私の今の幸福はあり得ません。 (2020.9.24電話にて)



東京都東村山市にあるハンセン病患者の収容施設、「国立療養所 多磨全生園」は、入所者が植えた森のなかにある。ハンセン病患者を祀(まつ)った納骨堂には、連日、花を手向ける人の姿が絶えない。ある朝、元ハンセン病患者の中村賢一(なかむら けんいち)さんは、足の不自由な高齢者の女性を車椅子に載せて、納骨堂にやって来た。若い日、院内で、強制的に堕胎手術をさせられた経験を持つ女性は、今も怒りと悲しみに体をふるわせます。

「強制堕胎手術は、今なら殺人ですよ」と。中村さんは入所した当初から、元ハンセン病患者の山内定(やまうち さだむ)さん、きみ江さん夫妻と半世紀以上、親交を重ねて来た。三人は老境に入った今、かつてこの収容所内で行われていた凄惨且つ呪しき事実を、その実態を自ら明らかにせずには死ねない、との強い共通の思いを抱いていた。

きみ江さんは22歳で同収容所に入所して10ヶ月後、同じハンセン病を患う定さんと知りあい、院内で結婚した。院内での結婚の条件は、夫となる男性が断種手術を受けることだった。半世紀を経て、定さんの口から初めて語られる、結婚直後の断種手術当日の様子……。告白した日から半年後、定さんは永眠する。ハンセン病に罹患したことで、自らに与えられた人生の意味とは、使命とは何か。それを探すために、より強く生きるために、きみ江さんの新たな挑戦が始まった……。