ブータン 山の教室
Lunana: A Yak in the Classroom
G
ブータン
パオ・チョニン・ドルジ
シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、ペム・ザム
オフィシャルサイト
2019 ALL RIGHTS RESERVED


ブータン 山の教室

『映画で世界一周』キャンペーンをやっていたら、珍しい「ブータン」のビザを配れたのに、、、と思ってしまいました。

さて。初めてブータン映画を見ました。国内には映画館がひとつしかないブータン、テレビやインターネットなどが解禁されたのは1999年。近代化から取り残されているのか、近代化に毒されず守られているのか(いたのか)。

ブータンは鎖国しているわけではないけれども、毎年ブータンに入国する観光客の数を制限するための措置がとられており、一般的な普通のブータン人と観光客の接触は必要最低限にするためにガイドなしで観光客がブータン国内を旅できず、観光客が行けるところも決まっているとブータンに何度も行っている人から聞きました(15年以上前の話なので、今は違うのかもしれません)。その人の話を聞いてから、いつかはブータンに行きたいと願っていますが、いまだ叶っていません。

そんな憧れの国の人々の生活が、映画という形で観られるなんて!!(もうそれだけでも観る価値ありの映画です)



ブータンというと、国民の生産力で国力を決めるのではなく国民の幸福度が重要だとしていて、伝統を守る素朴なイメージの国ですが、国境の街では海外からのものが想像以上に流入していて問題も多いと聞いていました。本作品の冒頭は首都であるティンプから始まりますが、普通に都会で主人公の若者は日本やアメリカにいる若者とあまり変わりません。これが、いいのか悪いのかは置いておいて、ブータンの現実なのだというのが窺えます。

そこから「山の教室」に向かうまでの景色や「山の教室」があるルナナの景色は、壮大で美しく素晴らしくて、ずっと観ていたい景色でした。私はブータンには行ったことないのですが、同じヒマラヤ山脈があるネパールでトレッキングをしたことがあり、その時の景色や苦労を思い出しました。私がネパールでトレッキングをすることになったのは予想外のできごとで、漠然とインドに行こうと日本を出て1週間後くらいのことで、気づいたらネパール西部でトレッキングをすることになっていました。



本作の主人公と同様に、旅に出る前は都会に住んでいて、ナイトライフ最高!シティライフ最高!汚いトイレとか大嫌い、という私でしたが、ネパールの標高1800メートルくらいのところから歩き始め、山肌に広がる段々畑に瑞々しく映える緑の中、ネパールの国の木というラリグラスの樹々でなる林など、道なき道をガイドに導かれ朝から夕方までただひたすら歩く。1日に何キロも山道を上がったり下がったりしながら、途中で嫌になって歩みを止めても、どこでも寝泊まりできるわけではないので、その日の宿を取るところまで歩かないといけません。

トレッキング中のある日、今日の目的地は見えてるよと言われて、目の前のそんなに遠くないところを指さされました。でも、目的地の集落は、今いる山とは別の山肌にある集落。どうやって行くのだろうと、橋はどこ?とガイドに聞いたら、はるか下に見える谷底にある小さな川にかかっている小さな橋を指さされました。本作の主人公がルルナまで行く道中で文句を言っていた時、遠くに見える橋を見た時のガッカリした気持ちを思い出しました。

近くの集落まで行くのに、谷まで数キロの道を降りて、また数キロの道を歩いて登る。不便ですが、それがこの地に住む人たちにとっては当たり前のことなのです。私は3、4日かけて、8000メートル級の山が連なるアナプルナ山脈の近く(標高3500メートルくらい)まで歩いて行きました(そしてもちろん同じ日数をかけて元の場所に戻りました)。




最初は「なんで私は山を歩くことになっているのだろう」とイヤイヤな気持ちで始めたのですが、アナプルナに近づく頃になると、目の前に広がるアナプルナ山脈の美しさに心奪われていました。3500メートルの山頂から見るアナプルナ山脈は、5000メートル近くの高低差があるのでものすごい威厳がある存在感を醸し出していて圧倒されました。特に、夜にトイレにいくために外に出た時に(電灯などないのに)明るく感じて、ふと空を見上げると、そこには月の光で青白く輝く雪山がそびえたっていて、それはもう神々しいとさえ思いました。

トレッキングをするまで、「なんで私が歩かなきゃなのよ(←嫌なヤツですね)」と思っていたのですが、神々しいと思うような景色を見て「歩かないと見えない景色があるんだ」と気づきました。

1日歩いた後で取る食事の美味しいこと、この地で生活をしている人たちがいるということ、自然の中で私たち人間がいかに小さいのかということ、小さな一歩でも歩き続けるとちゃんとどこかにたどり着くということ、便利なことが幸せと直結しているわけではないということ、そんなことを経験して学びました。

ネパール人のガイドに「ネパールすごいね」というと、「そうでしょ? 外の人から見たらネパールは途上国で何もないと思われているけど、ネパール人にとって必要なものは全てここにあるんだよね」という答えが返ってきました。



本作品のテーマでもあると思うのですが、幸せとはなんでしょうか。

ルルナの生徒たち(役者ではなくルルナに住んでいる子供たち)のキラキラした目を見ていると心が洗われる気持ちになるの同時に、やっぱり幸せとはなにかと考えさせられます。ラストのシーンでも、幸せとはなんだろうと思うのですが、きっとこのラストの後に続くストーリーで、主人公はなにが幸せなのか気づくのではないかと私は思うのです。いやぁ、本当にすごくすごくいい映画でした。ブータンの素晴らしい景色と、ルルナの村人たちの笑顔、ぜひスクリーンで堪能してください。