親愛なる同志たちへ
Dorogie Tovarischi
G
ロシア
アンドレイ・コンチャロフスキー
ユリア・ビソツカヤ、アンドレイ・グセフ、ウラジスラフ・コマロフ、ユリア・ビソツカヤ
オフィシャルサイト
Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020


親愛なる同志たちへ

本作『親愛なる同志たちへ』の当館での最終日2022年6月2日は、ソ連崩壊の直前まで隠蔽されて、なかったことにされていたノヴォチェルカスク虐殺事件が起きた日からちょうど60年目となります。ノヴォチェルカスクというのは、ロシア(旧ソビエト連邦共和国)の南西部、ウクライナとの国境にあるロストフ州にある街の名前です。

60年前の1962年。この時から、ロシアは、世界は、変わったのでしょうか。東部ウクライナと国境を隔てるロストフ州にいる人たちは、本作品を観てなにを思うのでしょうか。(GoogleMapによると、ノヴォチェルカスクからウクライナのマウリポリまでは車で3時間半ちょいくらいの距離のようです。ノヴォチェルカスクにいる人にしてみれば、(刈谷からみて)東京よりも近いところで戦争しているってことなのですね、、、)

そもそもこの地方とウクライナは「コサック」と呼ばれる遊牧民のような軍事集団のような人たちが治めていた時期があり、コサックの中でもドン川流域を「ドン・コサック」といい、帝政ロシア時代には自治を許されていた時期もありましたが最終的にロシア帝国に取り込まれます。このドン・コサックには、本作の舞台となるノヴォチェルカスクがあるロストフ州や、ウクライナのドネツク州がはいります。この地理的な状況、コサック文化(民族?)などが、今のウクライナ情勢に影響を与えているのでしょうか。

ついでに、ソ連時代になってからこのコサック地方にチェチェン人などの移住を推進した関係でロシアの民族紛争がややこしくなるのだそうです。(地図で見たら、チェチェンは、ノヴォチェルカスクがあるロストフ州のすぐ南にありました。)

ウクライナとノヴォチェルカスクがあるロストフ州の位置関係は下記のようになります。左の地図のピンク色がロシア全体、赤色がロストフ州です。水色のウクライナとピンクの間にある白色は黒海の一部で、右の図では水色になっています。その地図でわかるように、ノヴォチェルカスクから国会沿いに西へ行くと、マウリポリとなります。



私はロシア・ウクライナ情勢に詳しくないので、この地図やコサックの歴史を調べて思ったことですが、「ドン・コサック」がロシア帝国時代にロシアだったことで、ロシアはこの地域がロシアだという考え正当性を訴えているのでしょうか、、、。本作にも言えることですが、どんな理由があっても虐殺はいけません。無差別に市民を殺してはいけません。

虐殺シーンを観ていると、こんなことがウクライナで実際に起きているのかと愕然とします。



主人公のリューダは、「キツイ女」って2回も言われるくらい高圧的なところがある女性ですが、彼女の国や主義に対する忠誠は、 第二次世界大戦中の日本で国のことを信じていた人たちのように、決して非難されるものではないと思います。純粋に、国や国を治める政治家、共産主義を導く党の高官のことを、信頼している、信頼したいと思っている国民のひとりであるだけなのです。

その彼女の信念は、虐殺事件によってこれまで心の奥底に押し込めていた疑惑や不信感が爆発することになります。なるのだけど、自分が信じているもの(偉大な国家への忠誠や、共産主義という思想、その理想)を手放すことは、もしかしたら自分自身を否定することくらい難しく苦しいことで、リューダは苦しみます。

この辺も、私はソ連のことに詳しくないので想像でしかないのですが、スターリン世代のリューダとフルシチョフ世代の娘との世代間での考え方の違いなんかもあるのかなと思います。リューダとリューダの父親はスターリンのソ連と、自由コサックの世代の違いみたいな。(それがどういう風に思想に影響するのか、よくわらかないのですが、、、)



本作は2020年の東京国際映画祭で上映され、2020年のベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した作品ですが、今、一般に公開されているっていうのは、今だからこそ観るべき作品、ということなのかもしれません。ロシア(ソ連)の闇のような内容ですが、こういう作品が制作、公開されるっていうのは、ソ連時代と違うということなのでしょうか、、、(ソ連崩壊後、この事件で亡くなった人を改めて埋葬したみたいですし、なんとプーチンも、事件の記念碑に花を手向けています。)再度言いますが、どんな理由があっても虐殺はいけません。

亡くなった人たちの冥福をお祈りします。
親しい人を亡くした人たちの悲しみが少しでも和らぎますように。
そして、今なお困難な状況に置かれている人たちが一刻も早く改善されますように。

最後にどうでもいいことですが、作中に出てくる作家ミハイル・ショーロホフが気になって調べたら『静かなドン』の作者でした。そうか、『静かなドン』のドンは、ドン川のことだったのか!(実家にこの本があったのですが、タイトルだけ見てマフィアの話だと、今の今まで思っていました。)