ブラインドスポッティング
Blindspotting
G
アメリカ
カルロス・ロペス・エストラーダ
ダヴィード・ディグス、ラファエル・カザル、ジャニナ・ガヴァンカー、ジャスミン・ケパ・ジョーンズ
オフィシャルサイト
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ブラインドスポッティング

今のアメリカの、西海岸の、サンフランシスコベイエリアの、オークランドの、状況を知らなくても感覚的にわかる映像が素晴らしいです。けれども、現状をより知っていると、本作品をより深く、よりおもしろく観れると思います。

黒人(*)と白人が悪いことをしていたら(たとえ白人の方が主犯だとしても)黒人が主犯と決めつけられたり、黒人だけが起訴されたり、丸腰の黒人を白人の警察官が後ろから発砲して殺してしまう(でも逆はありえない)、、、という理不尽なことが現実に起きるアメリカ。



本作の舞台であるオークランドは、アメリカ西海岸のカリフォルニア州にあります。アメリカの西と東では文化が違っていて、一般的に西の方が人がフレンドリーで健康志向なイメージです。スピリチュアル的な「マインドフルネス」という思想や、生のものしか食べない「ローフード」の文化もアメリカの西海岸で広く浸透しています。

映画の冒頭でちらりと出てくるアメリカのスーパーマーケットのチェーン店「ホールフーズ(Whole Foods)は、自然食品、オーガニック食材、ベジタリアンなど高級、健康志向のスーパーで、このスーパーで買い物する人などは、「青汁」((映画の中では「青汁」と訳されていた「Green Juice」ですが、私的には日本で数年前に流行った「グリーンスムージー」のイメージ)を飲んでる層で、「意識高い系」の人たち。

サンフランシスコ・ベイエリアは、カリフォルニア中部にあります。シリコンバレーを含む地域で、Google、Apple、FacebookなどのIT企業や新興の注目企業などが多く集まっていて、最も注目を浴びている地域の一つです。新しくベイエリアに住み始めた人たちの多くは、ステレオタイプな言い方をすると、オタクな感じだけどスタイリッシュになろうとしている健康志向の意識高い系白人だと言えます。

オークランドはひと昔前は、非白人(つまり有色人種)が多くすむ地域で、犯罪率も(全米でもトップクラスで)高いとされていました(今も決して治安のいい場所ではないようです)。伝説的なラッパー「2パック」のデジタル・アンダーグラウンドはオークランドで生まれ、数年前には2パックの誕生日がオークランドの祝日に制定されました。1960年代には黒人解放運動の政治組織ブラックパンサー党が結成されたところで、独特の黒人文化があります。が、サンフランシスコの土地や家賃の高騰により、サンフランシスコ湾を挟んだ湾の反対側にあるオークランドに、この「意識高い系」の人たちが移り住んできました。よくも悪くも元々そこにあった土壌を上書きしつつあります。



そのようなオークランドが舞台の『ブラインドスポッティング』は、オークランドが地元で幼馴染の黒人と白人の友情にオークランドの変貌と人種問題が絡み合っていながら、サスペンスとコメディと質の高いフリースタイルのラップが見事に融合したすばらしい作品です。

タランティーノのキレ、スパイクリ・ーのエンターテイメントの中にあるメッセージ性、『グッド・ウィル・ハンティング』のマット・デーモンとベン・アフレックの友情から生まれた共同執筆脚本、『8マイル』のエミネム的な要素が盛り込まれた感じです。



主演のふたりは、ベイエリア(ディグスはオークランド出身、カザルはオークランドの隣の市のバークレー出身)で、高校時代からの友達。ダヴィード・ディグスは、独自の試験的ノイズラップ、ギャングスタラップの「クリッピング(clipping)」のボーカルで、こちらは小学生の時からの幼馴染と組んだトリオです。(クリッピングのライブは、KEXPのYouTubeチャンネルで見ることができます。)また、舞台役者としても活躍、ブロードウェイのミュージカル『ハミルトン』にも出演していて、その役でグラミー賞とトニー賞を受賞しました。映画『ワンダー 君は太陽』に先生役でも出演しています。アメリカのアイビーリーグの名門大学であるブラウン大学出身で、大学時代にはハードルでの学校記録保持者。多彩な人です。

ラファエル・カザルは、ライター、パフォーマー、教育者、プロデューサーとして多岐にわたる活動している人で、スポークンワード・アーティストというジャンルの詩を歌わずに話すパフォーマンスをするアーティストとしても活躍しています。本作品の中でも、ディグストカザルの掛け合いがラップ調になっていくシーンは幾度となく出てきますが、この2人の経歴からみて納得ですね。脚本もディグストカザルによって執筆されており、撮影もオークランドで行い、地元の人たちがたくさん出演しているそうです。

今年は、『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』と、黒人と白人の友情を扱った作品がアカデミーにノミネートされた年でしたが、『ブラインドスポッティング』はそれに劣らない(人によっては、本作品の方が優れていると思う人もいると思うくらいの)作品です。男同士の友情ものが好きな方、ヒップホップが好きな方は必然!そうでもなくても、 ラストは圧巻!観る価値ありの作品です。



上記は、本作品のポスターやチラシとなったもの。どれも「観る人によって物事の観点は変わる」という本作品の主題をよく表していると思います。

* 黒人 ー 政治的に正しい言い方は「アフリカ系アメリカ人」とされる場合もありますが、本サイトにおいては特別な場合を除き「Black people」の訳として「黒人」と表記しております。「Black people」は、差別的な呼称ではありません。