ルース・エドガー
Luce
PG12
アメリカ
ジュリアス・オナー
ナオミ・ワッツ、オクタビア・スペンサー、ケルビン・ハリソン・Jr.、ティム・ロス
オフィシャルサイト
2018 DFG PICTURES INC.


ルース・エドガー

さらりと描いているけれど、いろいろな見方ができるとても深い作品です。思春期の迷いや怒り、PTSDは克服できるのか、善意とはどうあるべきか、慈善と偽善の違いは? 偏見と差別について、人間の本質とは、といいうようななどの哲学的なテーマに加えて、人種の問題、アメリカが抱えている問題、親子の問題、学校での教育の問題など多くの問題を含んでいます。

なので、どの観点からこの作品を観るかで違った感想となると思いますし、同じ観点から観たとしてもきっと結末の解釈は人それぞれになるのではないかと思います。



凶悪な事件を起こした犯人の近所に住む人が「いつか何かの事件を起こすと思ってた」よりも「そんな事件を起こすような人には見えなかった」とコメントすることが多いように、人が他人に見せる顔はその人の本性を表しているとは限りません。だからと言って、表に見せる顔が全くの嘘だとも言い切れないし、本当はそんなに悪くない人なのに、不幸が重なり「魔が差して」事件を起こした人だっているかもしれません。

以下、作品の内容を含む表記があるので、事前に内容を知りたくない方は、鑑賞後にお読みください。



少年なのに戦わなければならなかったアフリカの国から、「自由」の国アメリカへ来たルース。でも、アメリカの「自由」とは、ルースにとってどんな自由だったのでしょうか。。自由と引き換えにした代償は? 少年兵だった子を“救ってあげた”夫婦は偉いのか、本当ルースは救われたのか、それとも、救ったというのは白人夫婦の自己満足な思いで、もしかしたら白人夫婦は彼はお行儀のよいペットの犬を育てるように、見たいと思う青年を表面的に作っただけかもしれない、など疑問は山ほど湧いてきます。

親の持つ愛情と我が子に感じる違和感と疑う気持ちが入り混じるのも、思春期の何を考えているかわからない時期なら血の繋がっている子に対しても持つのかもしれないけど、養子だったらさらに親として混乱したりするのかもしれないと思ったり、逆に養子だからという思いの強さから過剰に保護する方向に気持ちが向くのかもしれないとも思ったり、親と子の関係という観点からもいろいろ思うところがありました。

ルースとウィルソン先生の対立から、一世代前の黒人と現代の黒人の考え方の違い、アメリカで生まれ育った黒人と移民してきた黒人の違い、黒人の中で育ってきた黒人と白人社会の中で育ってきた黒人の違い、それぞれ色々な問題が絡み合っていて、アメリカにおける黒人の立ち位置が部外者には想像できない根が深い問題で、「Black Lives Matter」運動が大きく動いた今年、本作品を観れたのは良かったと思いました。



本作品の原題は『Luce(ルース)』なのですが、そこからもう本当のルースではない気もします。アメリカ人にとって「発音しづらかった」と言って改名された少年。黒人にその名前?と驚かれた名前を持つ青年。この青年が生まれて親がつけた名前は、本作品中で出てきません。本名って、人にとって思っている以上に重要なのかもしれない、と思いました。

何が真実で、何が偽りなのか。ラストシーンの彼の表情の意味は? 見終わった後も、しばらく考えさせられる作品でした。